江戸の国学者、本居宣長は古事記伝の著者として有名である。教科書にも取り上げられている賀茂真淵との出会い「松坂の一夜」がある。この夜、宣長は真淵から、借り物の言葉では日本の本質が捉えられないことを伝授されたのだ。本稿の論旨からすれば、この出会いは、日本人は歴史の中で隠れてしまった日本本来の世界を取り戻すきっかけとなった歴史的事件であった。古いタマの世界、コトダマを実感できなければ、いくら言葉を積み上げても無意味である。当時、学者たちは儒学など中国の言葉で学術研究を行っていた。彼はそれを「からごころ」といい、宣長は日本古来の言葉「いにしえごころ」に立ち返えるべきだとしたのであった。現代では、グローバル化と高度情報化社会の中で、欧米の言葉で思考し、それがあたかも自分の言葉であるかのように振舞っている人々が増えている。宣長は、「ちょっと待った」をかけたのである。
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