富士山 こころのランドマーク


富士山が世界文化遺産に登録された。富士は日本人にとってカミの山である。決して人が登山して征服する山ではない。富士のカミは、日本神話で高千穂峰に天孫降臨したカミ、ニニギノミコトが娶った女神コノハナサクヤヒメである。多くの日本の霊山のカミは女神である。江戸時代に富士への信仰、富士講が盛んになり多くの人々が富士山頂を目指した。

静岡への旅の途中で、私は就職が迫っている少年と出会った。彼は爽やかな口調で「僕は一生、富士が見える場所で過ごします」といった。富士は山以上の何かなのだ。

おそらく富士山は稜威(イツ)そのものではないか。此岸から彼岸に詣る。彼岸から戻ってくることで元気になり蘇る(黄泉帰る) のだ。日本の景観の典型として富士をのぞむ風景がある。銭湯の絵が有名である。東京の街には今も、富士見台とか富士見坂などという地名も多い。人々は誰しもある憧れと親しみを持って富士を眺めるのだ。そのことは人々の日常世界の景観の中に、それを超えた彼方の世界を象徴する富士の姿が、富士の姿の向こう側の彼方の世界を指し示すアイコンとなっているのかもしれない。

 

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