昼と夜、地上と地下、祭りと日常生活、山と里、陸と海、地上と空、日常空間と廃墟、ヒトはそれらを体験する時、こちらからあちらを思い浮かべる。鉱物は地下から掘り出され地上でヒトの資源となる。植物は地下から養分を吸い上げて成長し、花や実となって地上の生き物を潤す。魚たちは水の外に引き上げられて海の幸となる。祭りは、あちらからやってきたカミが神輿に乗せられて里の家々を祝福してまわる。ヒトは山・海・空の彼方にあちらの世界を感じる。夜を照らすほの暗い照明の向こうの闇に、あちらの世界をを感じる。カミ、タマシイ、モノノケ、オニ、幽霊、怪物などはあちらの住人である。ヒトが感じるカミとはすべてあちらの世界のものたちの総称である。日本では、芸能者や職人の優れた人たちはあちらのパワーをこちらに導き入れるすべを知ったヒトたちであった。しかも彼らの技芸は、あちらをこちらに引き入れるために精緻を極めたものとなった。それらを見たり体験したりする人たちは、一見、シンプルでフラットな表現物の背後に、必ずあちらからのメッセージを受け取ることとなる。光と闇、黄昏のほのかな陰影の中であちらへの入口を見つけて、あちらからこちらを見ることができた時、まったく新しい世界が広がっているのかもしれない。